作る世界感によって言葉は選んで良いと思う。じゃないと、書きたいものは書けない時があるよ。

小話

偶には趣向を変えて。取りあえず、こんな小話でも。(創作文です)

 

其の壱

淑子(トシコ)は物書き志望の女性であった。

元来、淑子は空想をすることを愉しいと思っている節があり、それは幼い頃から続く彼女の癖の部分でもある。

想像逞しく、頭の中に描きだした世界を人に話すと、大抵は耳を傾け面白いと褒めてくれる事が多い。もしかしたら、それは子どもに対するただの褒め言葉だったのかも知れない。しかし、そういった際に貰える感想は、淑子にとって非常に心地良と感じるものには違いなかった。

いつしか彼女は、言葉で話すことだけでは物足りないと感じ始め、頭の中に浮かぶ世界を書き留めようと筆を持つ事が増えた。

 

彼女が本格的に文壇を目指そうと心に決めたのは、彼女が勉学の選考として言葉を選んだ頃からだ。

幸か不幸か周りには、彼女と同じように夢を描き、勢いを以てそれに突き進むような熱い想いを抱く同士が集まり、日々「あれはどうだ」「これはこうだ」と意見を交わしあうことも多かった。

それは、実に愉しい時間だったと彼女は思う。

自分の意見に対して、誰もが真摯に向き合ってくれる。互いの価値観がそぐわなくとも、それを頭ごなしに否定されることはまず無い。

それは、互いに同じものを見つめ同じ場所を目指すという目的があり、そして何より、彼等が若かったと言うことが関係しているのだろう。何に於いても真剣に意見を交わす。その事でより自分の描き出す世界が洗練されていく感覚が素晴らしいと。

だが、そんな充実したひとときはそれほど長くは続かなかった。

卒業というものが差し迫ると、あるものは夢見事を諦め現実と向き合い、あるものは夢を掴むために一つ前へと足を踏み出す。そうやって、各々が別の道へと進み始め、一人、また一人と仲間は数を消していく。

それでも、夢を諦めきれない人間は居るものだ。淑子もそんな夢を諦めることの出来ない人間の一人であったことは間違いない。

 

其の弐

夢を諦めることが出来なかった淑子はというと、それから暫くは生活の合間に筆を持ち話を書き続けていた。

当然、家人からは「そんなことは辞めろ」と口を揃えて云われ続けたが、淑子はそれに耳を塞ぎ、ただ、ただ、自分の夢を叶えるために努力を続ける。それは途方もないものに思え眩暈を覚えることもありはしたが、それでもペンを持ち枡目の印刷された原稿用紙と向き合うと、矢張り心は踊るものだ。

そんな彼女に転機が訪れるのは、そんな生活を半年ほど続けた頃だった。

それは書きたいと望んで書いたものではなく、何となく筆をとり紙面へとまとめた短い話。それがたまたま目に止まった公募の選考に通ったことで、淑子の生活は大きく変わる。

もちろん、出せば確実に売れるという訳では無かったが、それでも彼女の紡ぐ物語は少しずつではあるが世間に受け入れられ、それなりに求められるようになった。

彼女はそれをたいそう喜んだ。

それもそうだろう。今までずうっと夢を見ていたことが、突如現実となったのだ。

紡いだ言葉は本に載り、話数が揃ったところで一冊にまとめられ書店に並ぶ。それを手に取り嬉しそうに頁を捲る人の顔を見ると、なんとも言えない優越感と高揚感を覚えてしまう。

−−私は世間に認められたのだ。

それが、淑子に更なる自信を付けさせ、彼女の筆は勢いに乗る事となった。

 

其の参

それでも、いつまでも順風満帆とは行かないのが現実である。

流行りの移りというものは思っているよりも早く、淑子の描く物語の人気は少しずつ蔭りを見せ始めてしまった。

始めの頃は、淑子自身もそれに気付くことは無かったが、店頭に並ぶ本の冊数が減らない事に気が付いてからというもの、その事ばかりが気に掛かり筆の乗りも随分と鈍ってしまう。

淑子は確かに焦りというものを感じていたのだろう。

だからこそ、彼女は色々と考えた。「何故本が売れないのか」、「何故読み手が減ってしまったのか」ということを。

ある時、彼女はこのような事を尋ねた。

「何故、私の本は売れないのでしょうか?」

彼女を担当している男は、顎を撫でながら暫し考える。

「貴方の本が売れていないなど、誰が云ったのですか?」

男がそう答えたのには理由がある。

確かに、淑子の本は全盛期の頃に比べると売上げは少しずつだが下降に舵を切り始めてはいた。しかしながら、彼女の文には少なからず固定の読者が存在はしている。その数から見ると、その疑問を抱くのは未だ早い。そんなことを考えるよりも、作品を出して欲しいと彼が思うのは至極仕方のない話なのかもしれない。

「貴方の本は売れておりますよ。それは私が保障いたしますので」

しかし、その言葉はとても残酷なものではあった。

「売れているのですか?」

「ええ。現に、今度増刷が決まりました。おめでとう御座います」

だが、焦りを感じていた淑子自身、この時はその言葉を素直に受け止め、それ以上深く考えることは辞めてしまった。人の心は思ったよりも単純なものなのだ。私はまだ大丈夫。その安心が淑子に再び筆を持たせ、また新しい世界を産み出すための原動力となった。

 

其の肆

ある日、淑子は一通の手紙を貰った。

それは、懐かしい友人からのもので、開いてみると今度皆で集まるのだとある。

「君も来ないか? ですって?」

頃合いも良く丁度草稿の修正が終わり、書き上た原稿を担当に渡した後の誘い。思わず彼女の表情は綻び、まるで少女のようにころころと笑いながらその誘いを喜んだ。

慌てて筆を執ると、彼女は参加するという旨をしたためポストへと投函する。また、皆で集まることが出来る。そう思っただけで、彼女の心は嬉しくて弾むのだった。

久方振りに会う級友は、外見の変化はそれぞれではあったが、何処かしらあの頃の面影を残したままで感じる安堵。言葉を交わせば、彼等は直ぐにでも学生の頃に戻ったように書のことについて意見を交わしあった。

その中には、淑子の物書きとしての仕事を喜び、彼女の書を手に取る人も居る。

「君の書くものは、あの頃から変わらないね」

そう褒める者も居れば、

「君の書くものは、もう少し工夫した方が面白くなると思う」

と意見をくれるものも居るのだ。あの頃と同じように、真っ向からの否定はなく、やれどうした方が良いだの、ここの表現は最高だのと、淑子にとってそういった意見の交換は実に心地良かった。

しかしだ。その中の一人に、こんな言葉を云う者が居て、次の瞬間彼女の表情は凍り付く。

「君が書く物は読みにくい」

その言葉が変えてしまった場の空気。途端に皆の表情が強張り静寂が場を支配する。

「どういう……ことかしら?」

淑子の声は震えていた。それもそうだろう。彼女は始めて、正面から彼女の価値観に否定を述べられたのだから。

「言葉通りの意味だよ。君の書く物は読みにくいんだ」

 

其の

男は云う。「君の書く物語は、始めから読みにくかった」のだと。学生の頃から、その事はずっと感じていたのだと述べた意見。

淑子には判らなかった。何故なら、彼は今まで、その様なことを一度たりとも言葉にしたことはなかったのだ。突然の裏切り。そのように感じ、淑子は酷く傷ついた。

泣きたくなった。ただ、ただ、声を上げて泣きたくなった。人目を憚らず両の手で顔を被い、何故? どうして? と泣き喚いてしまいたかった。それでも、その気持ちを押さえつけ、淑子は冷静に言葉を選ぶ。

「何故? 何故、そう思うのかしら?」

「君の書く文章は、言葉が硬いんだよ」

確かに。淑子の書く文章は女性にしては珍しく「硬い」という評価を貰う事が多いのは事実である。それは趣味としてまとめた同人誌でも、売る事を目的として書いた本でも変わる事はない。ただ、それは彼女の癖として受け入れて貰える事が多く、また、そのことが彼女の味であると喜んでくれる意見の方が多いということもある。そのため、それを欠点として自覚することを、彼女は今の今までしたことがなかった。

「漢字が多いのだ。だから、とても読みにくい」

まるで同意を求めるように、彼は級友たちに視線を送る。

「ええと……その……」

意見を求められた友人は、言葉を濁し罰が悪そうに視線を逸らして口を噤む。

「始めから、僕は君の書くものを愉しいと思って読んだことはない」

それを肯定的な反応と捉えたのだろうか。彼は今まで溜めていた鬱憤を晴らすかのように、饒舌に話はじめた。

 

其の陸

彼の意見をまとめるとこうである。

彼は元々、漢字を多用する文を読む事を不得手としていた。そのため、淑子の作り出す文体は、とても硬くそして読みにくいと感じていたのだという。

彼の好む文体は淑子の書くものとは正反対で、表現も大分砕けた印象が強い。しかし、それが良いのだと彼は得意げに意見を述べる。

「ごめんなさい。少し、時間を貰えるかしら」

改めて告げられた自分の文の特徴と、それを受け入れられないと否定された事実。その事を上手く受け止める事が出来ず、淑子は厭な汗をかく。

「現に、君の書く本は最近売れていないそうじゃないか。書店に立ち寄った際、君の本が沢山積まれ売れ残っているのを、僕は見たことがある」

何をこの場で言わなくとも良いことを。慌てたのは彼以外の友人達だ。そしてそれが、彼の言った言葉が真実だということを立証してしまった。改めて突きつけられた事実。それは一度、淑子の担当によって否定されたことではあるが、あの時に感じていた厭な予感というものが気のせいではないと淑子も漸く気が付く。

「僕なんて、始めから君の本を買ったことは無いよ!」

今まで溜め込んでいた想いというものは、一度吐き出してしまうとなかなか止められないものなのかもしれない。彼は、周りが止める声を振り切るように、次から次へと秘めていた考えを言葉にして淑子へとぶつけ始めた。

「最近では、読みにくい文体の小説は読まないという人間も増えているらしい。以前は僕の書くものは、やれ言葉が足りないだの、表現が可笑しいだのと言われていたが、今はどうだ? 僕の書いた本は君の書いた物と異なり、少しずつ売上げを伸ばし始めていたりするんだぜ」

次から次へと押し寄せる言葉の波。それを真正面から受け止める淑子の手は、痛いほど硬く握られ小刻みに震える。

「小説というものは、分かり易く書くからこそ、より多くの人間に読んで貰えるんだ。作者だけが陶酔できる凝った文体なんて、なかなか一般に受け入れて貰うのは難しいからね」

だからこそ、文を書くルールに則って、より形の良い文章を書く必要が有るんだ、と。彼は饒舌に語り続ける。

「難しい漢字や当て字は読みにくい。だからこそ漢字を開きひらがなに直した方が良い。表現に拘りが強すぎると伝わりにくい。そうならないために、無駄な表現を省き簡潔な言葉でまとめてあげた方がスッキリする」

そんな風に語られる彼の意見に、うんうんと頷き納得もする者も居れば、不思議そうに首を傾げ呆れたように溜息を吐く者も居る。だが、そんな周りの反応など淑子にはどうでも良かった。彼女に分かる事はただ一つ。今、自分の全てを目の前の相手に否定されている。ただそれだけである。

「そうだな。そう。君はもっと売れる文を書くことを意識すると良い」

 

其の

その時だった。

「そんなこと分かってるわよ!!」

突然、淑子が大声を上げる。

「私だって気付いていたわ! 私の本が売れにくくなっていることくらい!! それで悩んでることは否定は出来ない! だってそれは事実だもの!!」

その場に居た人間の視線が淑子へと集まる。先程まで饒舌に意見を述べていた彼も、淑子の勢いに面食らい口を塞いでしまった。淑子はと言うと、肩で息をしながら溢れ出る涙を必死に堪えている。呼吸が荒い。淑子の目に映っていた像は徐々に滲み歪んでいく。

「でも、簡単に自分を変えるなんて出来る訳ないじゃない!! 私はそんなルールを知らない! 言われても分からないんだから!!」

その言葉には嘘が含まれていた。実際は、淑子も自分の話が世間から見放され始めていると感じた頃に、どのような本ならば売れるのかを調べようと思った事はある。当然、彼の言うような本を手に取り読んだこともあるし、そういった文を書こうと試したことだってあった。

しかし、それは淑子にとって簡単なことではなかったのだ。自分の中にある癖がどうしても邪魔をしてしまう。何度やっても硬いと指摘された文を全く異なるものに作り替えることは不可能だった。

また、新しい文の形を模索しそれを担当に渡したこともあったが、あまり評判が宜しくなく、結局その話は日の目を見ることがなかった。そのため、結局は従来通りの文体で淑子の紡ぐ物語は形作られることとなっている。

「貴方の言うに書けるほど私は器用じゃない! それに、私の話は、私の文で作られるから面白いんだって言ってくれる人も居るのよ! みんながみんな貴方の言うように、私の書くものが読みにくいと感じているとは思いたくないわ!!」

それは淑子の願望だった。出来ればそうあって欲しいという彼女の心の叫び。そうでなければ、とても悲しすぎると。今まで私の事を認めてくれた人達に申し訳ないと。そんな気持ちから出た言葉である。

「……だ……だが、君の本は確かに……」

「ええ、ええ。それは分かっているわよ。でも、悲しいじゃない。悔しいじゃない。私だって、売れたいとは思うわ。それでも私は、私が書きたいものを書きたいの。私にしか作れないものを作りたいの。そのために選んだのが私の今の文体なの。それを否定されるのは悲しいわ。悔しいわ。そして何より……貴方の価値観の持ち方が悲しくて仕方無いわ」

読みにくいと言われてしまったことは仕方無いとしても、それが間違いだと言われる事は受け入れる事が出来ないと。淑子は必死に言葉を紡ぐ。

「貴方にしか書けない話があるように、私にしか書けない話もあるの。貴方と私は表現するものが異なるだけなのに、何故、こんな風に否定をされなければならないの? 何故、貴方は受け入れる事をしようとしないの? 読めないのだと切り捨てるのじゃなく、読みたいと思わせる工夫を凝らすことが大事なのではなくて? 私だって、今のままで構わないとは思ってなどいません。少しずつ変えていきたいと考えてはいます。でも、それは直ぐに結果が出るような事ではなくてよ。時間がかかってしまう事もあるのだわ」

頬を伝う涙をハンカチで拭うと、淑子は真っ直ぐに彼を見てこう言った。

「私は、私の世界に読者を引き込みたい。それが例え表現として受け入れにくいと感じられてしまっても、私が作りたい世界を私なりの表現方法で伝えたい。それが、私にしか出せない味になると思っているのだから」

 

其の零

「……と言うことがあったんだよ。淑子さんから話を聞いたとき、僕はゾッとしたね」

その話を聞いたとき、始めに思ったのは「実にくだらない」と言うことだった。

目の前に座り熱弁をふるう友人は実に真剣で。如何にこの話題が理不尽で、これが正しいのだからという意見を口にする。しかしながら私自身、彼の語る内容の半分は、何を莫迦なことをとしか捉えることが出来ないでいた。

「君は、この話を聞いてどちらの話が正しいと思うかい?」

その問いには正解などないのだろう。ただ、目の前の相手が求めている答えは何となく分かる。それを言ってやれば彼は満足げに頷き、「そうだろう」と笑みを浮かべるに違いない。

反対に否定をしてやれば、「何を言っているんだ」と厭そうに表情を歪め、深い溜息を吐くことも安易に予想がついた。しかし、私はどちらの意見にも同意する気は無い。

彼は期待に満ちた目で私を見る。それが益々面倒臭いと出た溜息。

「どちらも不正解だ。間違っているよ」

「どういう事だい?」

その意見は予想外だったようで、彼は目を見開き大げさに驚いてみせる。

「彼女は既に答えを見つけているじゃないか。ならば、彼女にとっての正解は、彼女が書きたい文体で彼女の物語を紡ぐ事だ」

「と言うことはつまり、淑子さんの意見が正しいと言う事になるのでは?」

「いいや。それは違うね」

私は言ったはずだ。どちらも間違っていると。そう伝えると、彼は困った様に眉を下げ首を傾げる。

「彼女にとっての答えはそれだが、彼の言っている事も正論ではあるんだよ。より多くの人間に読んで欲しいと願うのなら、受け入れやすいように文を組み立てる必要が有る訳だし、売れるための文を作るルールがあるのだとすれば、それに従って文を組み立てる方が効率は良いのだからね」

「ならば、淑子さんに意見した彼の云う事の方が正しいと言う事か?」

「そうではないと言っているんだが」

「よく分からないよ」

言葉を伝えるのは実に難しいものだ。どちらも正しくてどちらも間違いと言われた事で、目の前の相手は混乱してしまったのだろう。何がどうなっているのだと唸りながら頭を抱え込んでしまった。

「目的に応じて考え方を変えれば良いと言う話だって」

「目的に応じて?」

「そう」

難しく考える事はない。答えは実に単純な事なのだと彼に伝えるべく、私は言葉を選ぶ。

「つまり、こういう事さ。淑子さんにとっては、物語は思い描いた通りのイメージで彼女の世界として相手に伝えたい。その為には、彼女にしか表現出来ない書き方というものが必要なんだ。それが例え、万人受けしないものだとしても、それは彼女の味になるのだから受け入れて貰えれば良い意味で強味になる部分なんだよ。それに対して意見した彼は、稼ぐための物語を作りたいんだ。その為にはより多くの人間に読んで貰う必要が有るだろう? 限られた読者よりも、多くの読者を選ぶのならば、多少書きたい表現を諦めてでも、万人受けする文章を作る必要が有る。そうすることで、不特定多数の人間に興味を持たせる事が可能になるからね」

「ふぅん」

「とはいえ、これは稼ぐ事が出来ている人間が出来る悩みだ。君みたいな人間が同じように捉えて考えるのは些か間違っていると私は思うよ」

一気に話をしたことで乾いた喉。テーブルの上に置かれたカップを掴むと、すっかり冷めてしまった上品な味のする紅茶を一口含み喉を潤す。

「どういう事だよ。僕がそれを考えるのは間違いだって」

「言葉通りの意味さ」

面白くない。彼の表情はそう物語っている。しかし、私はそれを無視して話を続けた。

「だってそうだろう? 君はまだ、君の書きたい物を形にしてすらいないじゃないか。表現がどうだとか、書き方のルールがこうだとか言う前に、それを形にするための材料が揃っていないのだから、それを考えるよりも先にやることがあるだろうという話ではないのかい?」

それを話す事が出来るのは、彼等と同じように話を書くという土俵に上がってからだと伝えてやると、彼は納得したように一度頷き大きな声を上げて笑う。

「そりゃあ、そうか! 僕は未だ、作りかけの話を完結させてもいないんだった!」

目の前の友人が大雑把な性格で良かったと心底思う。

「君が書きたいと思うはどちらなのかは、そのアイデアを文という形にするときに改めて考えると良い。その時にどちらの意見が正しいものだったのか、自ずと答えは見えてくるかもしれないからね」

それならば、早速話を完結させなければ! 騒々しい友人は、その一言だけ残すと、さっさと部屋から姿を消してしまった。残されたのは飲みかけて中途半端に中味の残ったカップと、共通の友人から貰った土産菓子の包みだけ。

「硬い文章だろうが、読みやすい文章だろうが、その人にしか書けない面白いものならどちらでも良いんだよ。大事なのはその話にどう意味を持たせるのか。そのためにどう言葉を扱うのかなんだ。何が正解で何が間違いではなく、何をどう伝えるのか。そのためにどういう手段を選ぶのかを考える事が大切なんだ」

それがこの話の正解だと、もう受け取る相手の居ない言葉を目の前の空になった椅子に投げかけ、私はゆっくりと窓の外へと視線を移した。

目の前に広がるのは白い雲が浮かぶ青空。

さて。本日も、また本を読むことにしますか。新しく面白い世界に出会えるということを期待して。

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